愛を教えて
「存じません。失礼いたします。……ああ、奥様は昨夜、ラウンジチェアで休まれたようです」


その雪音の返答には何か含みがあるようだ。

卓巳の鼓動は嫌な予感にしだいに速くなる。 


卓巳が横にいないとベッドでは寝ない、万里子はそんなことを言っていた。

恐る恐るラウンジチェアに近づくと、オットマンの上に白い紙が見える。紙を取り上げた瞬間、彼の足元には銀白色に光る小さなものが転がった。

慌てて拾い上げる。

それは……ふたりで選んだ結婚指輪。


ふたつ折りにされた白い紙に書かれていたのは、


『卓巳様

あなたの望む妻になれなかったことを、お許しください。

信じていただけなくとも、愛していました。

ありがとうございました。さようなら。――万里子』


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