愛を教えて
そんな皐月の気配を察し、万里子は静かに首を横に振る。


「太一郎さんも、卓巳さんと同じだと思います。卓巳さんは、失敗を恐れて心を凍らせてしまいました。太一郎さんはどうしたらいいのかわからず、暴走しているだけです。でも、太一郎さんは自分が大怪我をしても私を止めて、悪かったと言ってくださいました。だから、もう少し時間を上げてください。きっと他の方にも謝罪されます……どうか、お願いします」


太一郎のために頭を下げる万里子を、皐月は胸がざわめく思いで見つめていた。


「万里子さん、太一郎さんに話したことが筒抜けになったのでしょう? あの子はあなたの信頼を裏切ったのですよ」


顔を上げた万里子は、涙に濡れた瞳でニッコリと笑った。


「いいえ。私は、彼を傷つけないと約束しました。疑えば傷つけます。信じて欲しいから、私も信じます。どうか、おばあ様も信じてあげてください。卓巳さんを愛するように、太一郎さんも愛してあげてください」



皐月にとってそれは受け入れ難いことだ。

歪んだ形ではあったが、高徳は芸者あがりの女を愛していた。他の女とは作らなかった子供も、あの女にはふたりも産ませた。挙げ句の果てに、ふたりの娘をこの邸にまで呼び寄せた。

皐月の愛もプライドも踏み躙った。

太一郎は憎い夫の化身、恨みがましい気持ちしか湧いてこない。愛せるはずがない。


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