愛を教えて
このとき、万里子の中で卓巳がいかに大きな存在か気づく。


すでにこのふたり以上なのだ。

父や忍には、心配をかけるのが嫌で何も言えない。だから、迂闊に泣くこともしないし、できない。

だが、卓巳は違う。

彼がそばにいてくれたら、万里子はいつでも泣けるし、思ったことをそのまま口にできる。
それが、愛と人生を分かち合う夫という存在。卓巳は万里子にとって魂の半身だった。


万里子は、父の胸に飛び込めば癒やされると思っていた自分の愚かさを知る。


そこに宗が、「こちらへ……」そう言うと万里子を玄関の外に連れ出した。


「大よそのことは、メイドの雪音さんより聞きました。社長の元にお戻りいただけませんか?」


万里子はすぐさま首を左右に振る。


「いいえ。私はもう、卓巳さんには許していただけないわ。本気で怒らせてしまって」


そこまで言うと、万里子は喉が詰まったように口元を押さえた。

前夜から泣き過ぎたせいか、目の回りは薄っすらと赤くなり腫れている。


宗はそんな万里子を見下ろし、しばし沈黙のあと、重々しく口を開いた。


「実は……昨夜社長が首都高速を猛スピードで走られまして……」


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