愛を教えて
この状況が“正しいドライブデート”ではないと、さすがの卓巳も気づき始めていた。

これまで、彼とふたりきりになった女性は、ほとんどが気分を害して次の約束をせずに別れる。


――女に媚びることは罪悪だ。


そう考える卓巳にとって、取引相手の女性以外は気遣いの対象ではなかった。

だが、万里子は別だ。

ひとまず、その方面に明るい宗に指示を仰いだが、残念なことに具体的なドライブコースまでは教示されなかった。

苛々と車を走らせる卓巳の横で、なぜか万里子は笑う。


(何が可笑しいんだ?)


聞いてみたいが、それ以上に……そのまま万里子に笑顔が見ていたいと思った。

卓巳は助手席で笑い転げる万里子に、不思議な感情を抱き始める。



この日、首都高に設置された監視カメラに数十回捉えられた不審なBMWがあった。
車内に張り詰めた緊張は時間が経つごとに薄れ、しだいに、卓巳の顔にも笑みが浮かぶ。

結果的にふたりは“ドライブデート”を楽しんだ。


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