愛を教えて

(10)消せない想い

宗の説得により卓巳は英国での仕事を引き受けた。

万里子の同行は間際まで拒んだが、彼女の将来と名誉のため、強引にでも体裁を整えておくべき、という意見を受け入れたのである。



翌朝、雪音は卓巳の部屋で荷物のチェックをしていた。


「ほとんど奥様がご用意されたものです。私は確認だけさせていただきました」


卓巳は憔悴の色が濃い。昨夜は一睡もしなかったのだろう。

太一郎と殴り合った傷はうっすら残っている。レセプションまでに消えてくれることを祈るのみだ。


「ああ、すまない。君にも世話になった。渡英中に万里子の荷物を纏めておいてやってくれ。この家を出るにせよ、太一郎と一緒になるにせよ、この部屋を使うことはないだろうから」


そんな卓巳の言葉を雪音はアッサリ否定した。


「太一郎様はこのお部屋を使いたいとおっしゃっておられました。レイアウトもベッドも変えずに、と」

「なっ! それでは万里子が……。そんな真似はやめるように言ってやってくれ。これ以上、万里子を傷つけないでやって欲しい」

「使用人の私にはなんとも。旦那様から太一郎様にお話しください」


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