愛を教えて
だが……どれだけ待っても父の手は頬に届かない。


卓巳がふたりの間に割り込み、隆太郎の手を押さえていた。


「お義父さん……万里子はまだ、私の妻です」


万里子の目の前に卓巳の背中があった。

触れたくても、もう二度と触れることはできない、愛しい人の背中が。


隆太郎は卓巳の手を払い、奥に消える。

卓巳も無言で玄関を出て行った。



今日は新婚旅行に旅立つ朝だ。

今が幸福でなければ、いつ幸福になるのだろう。だが、戻れば離婚が待っている。卓巳の妻でいられるのもあとわずか……。

それも、この一ヶ月のような、幸せな日々は望めない。


けれど――。


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