愛を教えて
「ふざけないで! 違法だわっ! 強要と同じじゃない。あんな……あんな、卑劣な手段で……あたしを誘惑したのよっ!」

「そうだったかな? 証拠はあるかい?」

「む、無断で……録音なんか……」

「無断? 俺はライトの横、見える位置にコレを置いて『コレでOKだ』と言ったはずだ。異論を唱えなかったのは君だよ」


宗の瞳から気だるさは消え、違う目的に輝いていた。人を動かすことにかけては、彼のほうがあずさより数枚うわ手である。 


「なっ!? この男はね、あんたのことも利用してるだけよ。社長夫婦に気に入られてるからってね」


敵わないと思ったのか、あずさの標的は雪音に移る。

だが、この件ばかりは雪音もあずさの敵ではなかった。


「残念でした。利用してるのは私のほうよ。融通は利くし、セックスは上手だし、お金も持ってるしね!」


雪音の大胆発言に宗は必死で笑うのを我慢する。


「こんな……男の、セフレのひとりになったくらいで、勝ったつもり?」


キスひとつ、指先一本で翻弄されたのが悔しかったようだ。あずさの声にいつもの迫力はなかった。

そうなれば、口で負ける雪音ではない。


「勝ったつもりも何も……悪いけど、あんたに負けた覚えは一度もないわ」


これには宗も口笛を吹く。そのまま、肩を揺らして大笑いしたのだった。


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