愛を教えて

(4)裏切りのキス

ニューイヤーパーティは朝方まで踊り明かすこともあるという。だが、フジワラ主催のパーティはそこまでの時間にはならず二時を少し回った辺りで散会となった。

卓巳の采配であろう、あのあと万里子は一度もライカーと話をすることもなく。卓巳より先に、スイートルームに戻ったのだった。


卓巳に触れられた唇が熱い。

話があると言ったのは、ニューイヤーキスのことを心配してくれたのだろう。万里子は年末年始に海外に出たことはなかったから、うっかりしていた。

でもそのおかげで、卓巳とキスができたのだ。

これで妻の役目は終わってしまった。明日にも、卓巳は日本に帰ろうと言い出すかもしれない。だとすれば、今夜は卓巳と過ごす最後の夜になる。

万里子は熱いシャワーを浴びながら、ひとつのことを考えていた。


(嘘でもいいから、もう一度だけ愛してると言われて、卓巳さんに抱き締めて欲しい)


万里子は、恥を忍んで最後のお願いをしてみようと思った。軽蔑されても構わない。どうせ日本に帰れば、二度と会うことなどできない人だ。

一生に一度だけ、自分の意思で男性を誘惑してみよう。

スーツケースの中には、あの日に買ってきた、とびきりセクシーな下着が入っている。万里子は入れ忘れたと思っていたが、雪音が気づき、忍ばせたものだった。


鏡を見ながら、万里子は身支度を整える。あずさほどではないが、しっかり寄せると零れ落ちそうなくらいには見える。上下ともこれほど隠す部分の少ないデザインは初めてだった。

少し悩んだが、一応、ブラウスとスカートも着て卓巳の帰りを待つ。

そして三時になる少し前、部屋のブザーが鳴った。


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