愛を教えて
卓巳は彼女を突き飛ばし、ウォッシュルームに飛び込んでいた。

どうしてもこれ以上の我慢ができなかった。洗面台に覆い被さり、縁を掴んで嘔吐を繰り返す。


そこにやって来たジューディスは、プライドを傷つけられたと烈火のごとく怒った。


『タクミ! あなたは女を愛せない最低の男ね。この私を馬鹿にして、このままで済むとは思わないで!』


そして、思いつく限りの悪態で卓巳を罵り、部屋から出て行った。



卓巳は万里子との行為で、自分にも男としての欲望があることに気づかされた。最早、それから逃げることはできない。だが、その対象がたったひとりであることも、今夜思い知ったのだ。


(なんてことだ……万里子以外の女性では、僕は心を解き放つことができないんだ)


理由はわかっている。

万里子を愛しているから。

卓巳には、愛のない行為は不可能だった。ひとりでは眠ることすらできない、女が抱きたくて堪らない。だがそれは、万里子なしでは眠れない、万里子を抱きたくて堪らない。そういう意味なのだ、と。


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