愛を教えて
卓巳は行ってしまった。仕事となると、まるで別人のようだ。


――今夜だけの嘘でいいから、私のことを愛してるって抱いてください。


卓巳にそう言って泣いて縋った。


だから、抱いてくれた。愛していると言ってくれたのだ。

万里子の耳に、卓巳の愛の言葉は一夜限りの偽りとして届いていた。


でも、今夜は一緒にいられる。三日後にはウェールズにも一緒に行けるかもしれない。

ひょっとしたら、日本に戻っても卓巳が飽きるまでそばに置いてもらえる可能性も残っている。


胸の奥にざわめく不安を抱え、卓巳の背中を涙で見送る万里子だった。


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