愛を教えて

(7)高貴なる誘惑

その日の午後過ぎ、グリーンパーク・スイートに一本の電話があった。

相手はパーティで挨拶をした元在日英国大使夫人キャロライン・ストラウド。万里子は彼女から、プリムローズ・ヒルの自宅に誘われた。

断りの意味も含めて、『主人に聞いてからお返事を』と返したが、『そのご主人のお役に立てるかもしれないわ』と言われ、心が動いた。

キャロラインは丁寧なことに、迎えの車まで万里子に差し向けてくれた。


卓巳は出かけるとき、「もし、サー・スティーブンから連絡があったら知らせるんだ。絶対にひとりでは会わないように」と、ライカーの名前を口にした。


(相手は女性だし、パーティに招いた外交官夫人なら身元も確かですもの。サーとは無関係なのに、断るのは失礼よね)


念のためと、卓巳に連絡を入れたのだが、携帯は電源が切ってあった。本社にも電話をしたが、会議中と言われ取り次いでもらえない。

万里子はフロントにメッセージを残し、車に乗り込んだ。


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