愛を教えて
卓巳は万里子のことを、日本人女性の平均レベル、とライカーに思わせようとした。


だが、彼は本物を見抜く目を持っている、こと女性に関しては。

ライカーは万里子のことを、ロンドン社交界にデビューしても見劣りしない教養と知性、そして容姿の持ち主だと思った。きっと、日本国内における実家の格式も卓巳が言うほど低くはないはずだ。

加えて、そういう女性は高い自尊心を持っている

こういう聞かれ方をすれば、むきになって否定するだろう。そのときに言うのだ『だったら証明して見せてくれ』と。


しかし、万里子はライカーの予想を裏切った。


『サー・スティーブン。夫の心に添うことは、私の希望であり喜びです』


漆黒の瞳はひと筋の動揺も見せず、真正面からライカーを捕らえた。


『それでは、私はこれで失礼いたします。キャロライン、美味しいお茶をありがとうございました。お話も楽しかったです。今度はぜひ、素敵なお庭も見せてくださいね』


ライカーはひと言もなく、万里子を見送った。


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