愛を教えて
万里子を乗せたタクシーが走り出す。

しばらくして、キャロラインがリビングに戻って来た。彼女は窓辺に立つ弟に話しかけた。


『スティーブン、もう、よろしいでしょう?』

『よろしくはない。だが、どうやら彼女はこれまでの女性とは違うようだ。人妻は、それもタクミのような男の妻なら、夫に退屈してアバンチュールを望んでいると思っていたんですがね』


ライカーは苦笑混じりに答える。

彼の周囲にいる人妻とはそういう女のことを指す。とくに金や身分があるほどその傾向が強い。新婚とはいえ簡単に切り崩せると思っていた。


『ロマンティックな出会いと、情熱的な愛の言葉では通用しない、か』

『そのチャンスももらえなかったようね。マリコは無理よ。心から夫を愛して尊敬しているわ。あなたに与えて欲しいものは何もないみたい。諦めるべきね』


キャロラインは、いつまでたっても遊び心の抜けない弟を諭すように言う。


『ヤマトナデシコ、か。余計に欲しくなった。なければ作るまでだ』

『スティーブン!』


彼は自分の張った罠をすり抜けて行った獲物に、興奮と期待を感じていた。


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