愛を教えて
「――悪い。朝食を取りながら、報告を聞くことになった。君と一緒に食べられそうにない。でも、夜には必ず戻れるようにするから」


万里子から離れ、卓巳は着替え始める。


「君はゆっくりシャワーを浴びて、身体の火照りを冷ましておいで。今日は一日、どこにも行くんじゃないぞ。その潤んだ瞳を他に男に見せたらダメだ。僕の帰りをおとなしく待っててくれ。観光には、僕が必ず連れて行くから。いいね」


卓巳はくどいくらい念を押し、ウォッシュルームを出て行く。


だが、万里子は熱くなる身体とは逆に、心は冷える一方だった。

卓巳は万里子の身体を気に入っただけかもしれない。

確かに、万里子も望んだことだ。だが、愛のない結婚より、愛のないセックスのほうが罪深い気がする。


卓巳のすべてが欲しい。

彼のすべてを知り、そして、万里子のすべてを知って欲しかった。


ふと気づけば、卓巳と愛を交わすとき、万里子の中から四年前の悪夢は消えている。

どうして、偽りの愛の言葉をねだってしまったのだろう。


万里子の視界が涙に滲んだとき、カチャッとドアが開いた。それは、出かけたはずの卓巳だった。


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