愛を教えて
「どうしたんだ、万里子!? 僕は君に酷いことをしたのか? いやなことをしたなら謝るから、どうか泣かないでくれ」


同じ壁にもたれたままの万里子を見つけ、卓巳は走り寄る。


「違うの。そうじゃないから、心配しないで……。大丈夫だから、お仕事に行ってください」


万里子は精一杯、なんでもない声で返そうとする。


「ああ、でも、これが君の指にないと、僕は安心できないんだ」


卓巳は万里子の左手を取り、その薬指に結婚指輪を押し込んだ。

それは飛行機の中で渡された間に合わせの指輪ではなく、ふたりが永遠の愛を誓った結婚式で、お互いの指にはめたもの。


「二度と外さないでくれ。愛してるよ、万里子」




数時間後――万里子はベッドに横たわり、左手に煌くプラチナの指輪をうっとりと眺めていた。

結局あのあと、ジェイクから催促の電話がかかるまで、卓巳は万里子を抱き締めてキスを続けた。

卓巳が強く吸い上げ、軽く歯を立てた下唇がむず痒い。


(もう……卓巳さんの意地悪)


卓巳は結婚生活を続けるつもりなのだ。仕事が無事に終われば、後半はきっと素敵なハネムーンになる。

万里子は結婚指輪に唇を寄せたまま、浅い眠りに引き込まれた。


< 650 / 927 >

この作品をシェア

pagetop