愛を教えて
しかし、ドアの外から新たな声が聞こえ、万里子は驚愕する。


『失礼、スティーブン・ライカーです。ロンドン一の名医をお連れしました。ぜひ診察を受けてください』


建前ではなく、ライカーは本当に医者を連れて来たのだ。

それもかなり権威のある医者らしく、ホテルの支配人が恐縮している様子が伝わってくる。万里子もそのまま門前払いにもできず。

だが、医者と共に部屋に入ろうとするライカーを万里子は制した。


『サー・スティーブン、たとえ支配人やドクターと一緒でも部屋に入られるのは困ります』


貴族の称号か財力か、万里子にはわからない。
だが、支配人も本当に困った様子だ。


『わかりました。では“パーム・コート”でお待ちしましょう。ちょうどアフタヌーンティの時間だ』


リッツのアフタヌーンティは宿泊客だけでなく、観光客にも大人気だ。三ヶ月も前に予約がいるという。だが、ライカーには関係のないことらしい。


『わかりました。お話は伺います』


万里子は諦め、そう答えた。


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