愛を教えて
『やあ、マリコ。具合はよくなったかな?』


“パーム・コート”は一階のロビーとメインダイニングの間にある。

目を見張るほどの豪華絢爛なシャンデリアの下に、真っ白いテーブルクロスのかけられた円形テーブルが並んでいた。ピアノの生演奏がバックに流れ、食器はすべて最高級のロイヤル・ウースターだ。 

万里子は、シッティングルームで形ばかりの診察を受けたあと、“疲労”との名目でビタミン剤の処方箋を渡された。


『おかげさまで、過分なお心遣い恐れ入ります』

『そんな警戒せずに。もっと肩の力を抜きたまえ。こんな場所で君を襲ったりはしないさ』

『別にそういうつもりでは……』


ライカーはダージリンティを頼み、万里子はアッサムを選んだ。

テーブルにセットされた三段トレイは――下から、スモークサーモンやハムなどのサンドイッチが数種類、真ん中にはレーズンとアップルのスコーン、最上段に数種のリッツ・オリジナルケーキという、トラディショナルアフタヌーンティコース。

本当なら今日のもっと早い時間、卓巳とふたりで来ようと予約を入れていた。

楽しみにしていたアフタヌーンティも、目に前に座る男性が卓巳でなければ意味がない。万里子本人も無意識のうちに、ため息が零れてしまう。 


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