愛を教えて
このホテル内にはスパやジム、エステサロンまで充実している。

ショッピングとなればデパートが一個入ったくらいの店舗数があり、レストランも数え切れない。

果ては茶室や美術館まで……。その辺りは会員制のようだが、宗の口ぶりだと利用可能なのだろう。


「もちろん出入りに制限はありません。それからお支払いのほうも。――これは社長のご希望ですのでご安心ください」

「とくに、欲しいものはありませんので、お気持ちだけありがたく。藤原さんのお仕事が終わるまで、こちらで待たせていただきます」


宗を見上げて万里子はキッパリと言い切った。


「お気に障りましたらご勘弁ください。会社の都合で万里子様に所在無い時間をお過ごしいただく訳ですから……。そのことへのお詫びかと思われます」


万里子に気分を害したと思ったのだろう。宗はあたふたとした様子で訂正した。


「いえ、そうではなくて。私は、藤原さんとデートをするために来てるんです。ひとりでは意味がないでしょう?」


それは、デートも婚約も偽装であることを忘れさせるような……なんの含みもない、万里子の笑顔であった。


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