愛を教えて
よほど急を要していたのだろう。ホテルのエントランスに立ち、宗は卓巳の到着を待ちかねていた。


「都内にいてくださって助かりました」


彼は万里子に対しても親しげな笑顔を見せる。


「少々時間がかかるかもしれません」


宗はホテルマンよろしく、万里子を部屋まで案内してくれた。

そこはオーナーズ・スイートではなく、藤原家でリザーブしているガーデンスイートと言われる部屋だった。


「ホテル内の施設でしたらどちらでもご利用可能です。万里子様のお名前を出していただければ……すべてフリーパスになっておりますので」


ホテル内のすべての施設が網羅された地図を手渡される。まさに至れり尽くせりだ。しかし、宗の口調には、どこか下世話なものが漂っている。

それに気づき、万里子の表情はわずかに曇った。


「フリーパスというのは、出入りが自由ということですか?」


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