愛を教えて
そんな万里子の沈黙を、卓巳は誤解したらしい。


「まだ怒っているのか? ミス・モーガンのこと。不貞を働こうとしたのは事実だ。君の目の前で彼女とキスした。君に、あの裏切りは許せない、と言われたら」


卓巳は泣くように顔を歪め、万里子に抱きついた。


「彼女に触れようとした途端、胃が引き千切られるような痛みに襲われた。あれは間違いなく僕に下された罰だ。心から反省した。僕は君しか抱けない。だから、君とは別れられない」

「はい……私も。あなたと離れられないし、離れたくない」


卓巳は万里子の顔を引き寄せ、狂おしいほどのキスを求めた。

それは体の境界線を忘れてしまえるほど。ふたりの心が溶け合い、その唇までひとつに思えてくるほどだった。



ひとりになり、万里子は鍵をかけた。

万里子の身体も熱を帯びていた。

卓巳が、他の女性が抱けないから万里子を抱く、と言うのならそれでもいい。卓巳をひとり占めできるなら、今の万里子はどんなことでもしただろう。


ライカーの知りたがっている万里子の欲しいもの。

それは唯一にして最大の望み“卓巳の愛”だった。


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