愛を教えて
卓巳は夜遅く、フォークナー側の関係者に呼び出された。

ラフなスタイルからスーツに着替えつつ、今夜中に戻れそうもない、と苦々しげに言った。


「支配人に厳しく言っておいた。たとえクイーンであっても通すな、と。私以外の外線電話は一切繋がれない。念のため、鍵だけはちゃんとかけて、ゆっくり休むといい。戻るのは……早くても明日の朝だ」


万里子は不安の色が隠し切れない。夜中にひとりでいるのはどう考えても心細い。

そんな万里子の様子に気づいたのだろう。卓巳は彼女の両頬に手を添え、上を向かせた。額をコツンとつけると、呪文のように言葉を繰り返す。


「大丈夫。大丈夫だ、絶対に君をサーに渡したりはしない。大丈夫。万里子、僕と一緒に日本に帰ろう」

「本当に? 本当に私はあなたと一緒に日本に帰っていいの?」


万里子の声が半オクターブ跳ね上がる。


「当たり前だろう。僕だけ帰れと言うのか?」

「いえ、そうじゃなくて。先に帰されるんじゃないかって、そう思っていました」


或いはライカーの機嫌を取って欲しい、と卓巳に言われたら……万里子は従うだろう。それが卓巳のためであるなら、どんな犠牲も厭わない。

ただ、そのあと自分がどうなってしまうのか、万里子にもわからなかった。


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