愛を教えて
万里子は卓巳の指を掴み、泣き言を言い始めた口元をキスで塞いだ。

卓巳はビックリした顔で食い入るように万里子を見ている。


「ミス・モーガンのほうが美人でスタイルもよくて、それに……男性経験も豊富で。それでも、私だけなんでしょう? どんなにサーが素晴らしい男性でも、私には卓巳さんじゃなきゃダメなんです。もう、新婚旅行なんてどうでもいい。契約が終わったら早く日本に帰りたい。卓巳さんと一緒に帰りたい!」


泣くつもりはなかった。

だが、興奮のあまり万里子は泣きながら卓巳に縋りついていた。


「悪かった。帰ろう、すぐに決着をつける。一緒に帰ろう、万里子」


卓巳の腕の中は温かくて心地よい。


社長は辞める、仕事などどうでもいい、そう言いながらも卓巳は正式契約のためにロンドンまでやって来た。

ロンドン本社を潰してもよいなどと、本心から思ってはいないはずだ。


卓巳の言葉を信じたい、だが、すぐに決着はつかないかもしれない。


そのときは――自分も卓巳と共に闘おう。万里子は心を決めた。


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