愛を教えて
本当は万里子も不安だった。

ドレスはホルターネックで、腕も肩も剥き出しになってしまう。背中の半分以上が露わになり、万里子にすれば裸同然の格好で人前に立つような気分だ。

そして、打ちのめされた風情の卓巳に、万里子はつい、


「あの、私からも頼んでみましょうか? もう、こんなことはやめて、普通にお取引していただけるように……」

「馬鹿を言うな! そんなことをしてみろ、奴の思うがままじゃないか!」

「そんな。サーの言いなりになるとは言ってません。私はただ」

「万里子、君は男を知らない。いや、君は僕のことを最高の男だと思ってるんだ。そうだろう? 尊敬して……騎士のようだと言ってくれた」

「ええ、そうです。今も、そう思っています」


万里子は急いでうなずく。だが、卓巳が何を言いたいのかわからない。


「僕のキスで満足してくれて、僕とのセックスで感じてくれている。でも、それは君が本当の男を知らないからだ」


言い返そうとした万里子の口を、卓巳は指を立て制した。


「君も知ってのとおり、僕は女性と付き合ったことがない。だから、エスコートひとつ満足にできない。十代のころからずっと避けてきた事柄だから、本当はベッドの上で君をどう愛したらいいのかもわからないんだ」


卓巳は心の底から口惜しそうに言う。


「悔しいが、奴は本物の男だ。彼に一度でもキスされたら、いかに僕がダメな男か、君にもわかる。彼なら、いやな思い出などあっという間に忘れさせてくれる。最高に幸せな――」


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