愛を教えて
「僕の頭はとうにおかしくなってる。君の情熱的なドレス姿に。ベッドまで待てず、テーブルに押し倒すくらいだ」


舌先を押し込む寸前、万里子の唇だけ強く吸って、強引に身体を引き離した。

卓巳はそのまま動きを止め、ギュッと目をつぶっている。ひたすら何かに耐えている風情だ。


「クソッ! 君に惚けたままじゃ、奴に勝てない。万里子、しばらくこの件に集中したい。二、三日戻らないかもしれないが、僕を信じて待つと約束してくれ」

「……はい」


卓巳の言葉が嬉しくて、万里子は笑顔で応えた。しかしその笑顔にも「ああ、ダメだ、畜生!」とブツブツ言いながら卓巳は万里子に背を向ける。



奇跡は起こらないかもしれない。神様が万里子に与えるものは試練だけかもしれない。でも、卓巳の“言葉”を信じよう。

万里子は結婚指輪に口づけて、この日新たに、卓巳への愛と忠誠を誓った。
 
その指輪を、再び外すことになるとは、思いもせずに。





―第8章につづく―


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