愛を教えて
万里子は驚きのあまり声もない。

それを卓巳は勘違いしたらしい。


「万里子、君の欲しいものは全部僕が買ってやる、あれ以上のものを」

「い、いえ……私はドレスや宝石に興味はありませんから。ただ、返さなくてよかったのでしょうか?」


ライカーに張り合ってロンドン中の冬咲きの薔薇を集められても困る。卓巳が徹底的にやる性格なのは、万里子にもよくわかっていた。


「僕が奴ならこう言うだろう――返すくらいならテムズ河に捨ててくれってね。いや、奴ならもっとクールな言葉を言うかもしれない。女性を喜ばせるのは奴の得意技だ」


悔しいのか、卓巳は天井を仰いで唇を噛み締めた。

そんな卓巳を見ていたら、万里子は無意識のうちに、心の中の思いを声に出していた。


「いいえ、卓巳さん以上の男性なんていません。お願い……もう、これ以上素敵にはならないで。私はもう、これ以上好きになったらどうしたらいいのかわからない。頭がおかしくなりそう」


卓巳は目を見開き、万里子を凝視した。

そして、吸い寄せられるように抱きつき、唇を押しつける。


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