愛を教えて
卓巳は結婚二ヶ月の花嫁を連れて新婚旅行中で、その情熱のほどをライカーは見せつけられている。彼が卓巳を自分の同類と思う要素は充分にある。


だが、万里子は卓巳の苦悩を知っている。ジューディスに酷い言葉で罵られ、ウォッシュルームに座り込んでいた卓巳の姿は忘れようにも忘れられない。


そして、最もライカーが予想を外したのは卓巳の行動だった。

ザ・サン紙が発売され、その日のうちにインターネットやマスコミが騒ぎ始めた。当然、卓巳は反撃に出るだろう。ライカーはそのためにわざと卑猥な言葉を列挙させた。

怒り狂って反論する卓巳の氷の仮面を叩き壊す。それが一番の目的だった。


ところが、卓巳は一切の取材を無視し、対外的にもノーコメントを貫いた。

抗議も反論もしない卓巳に、ライカーは戸惑い、次の手が打てない。そして記事から二日目の朝、ライカーは卓巳の取った反撃手段を知る。



今、万里子の手元にあるのはザ・サン紙ではなく、デイリー紙だった。デイリー・スター、デイリー・スポーツ、同じ種類のタブロイド紙と言うべきか。

そこに書かれてあったのは、『ジューディス・モーガンに愛人発覚』の文字。

同時に、彼女の長年に亘る薬物依存と入院歴、十代の逮捕歴まで明らかになる。愛人はかなり知名度のある芸能人で、しかも英国人だ。訳のわからぬ日本人との噂より、マスコミは一気にそちらに喰い付いた。

あっという間に、スキャンダルはスキャンダルで上塗りされ、タクミ・フジワラの名前は一日で紙面から消える。

無論、これが偶然のスクープであるはずがなかった。


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