愛を教えて
目眩がした。

卓巳が万里子をライカーに差し出すなんて。それは、やはり卓巳にとって万里子は『愛する妻』ではなかったということだろうか? 


『た、卓巳さんが……そうおっしゃったんですか? そんな馬鹿な。そんなこと信じられません。そんな……」


英語で答えていたはずが、万里子はしだいに日本語になる。


『わかりました。少々お待ちください』


ジェームズは携帯電話を取り出し、どこかに電話している。彼は二言、三言話すと、すぐに万里子と代わった。


『――どうぞ』
 
「卓巳……さん?」

「万里子か? 突然のことですまない。すべてジェームズに指示してある。彼に従ってくれ」

「そんな……本気ですか? 本気でおっしゃってるの?」

「ああ、すまない。時間がないんだ。とにかく、必要なものは向こうで調達すればいい、君の荷物はあとで送らせるから。すぐに彼と一緒にそこを出てくれ」

「……そんな」

「愛してるよ、万里子。君のためだ。向こうでも充分楽しめる。僕の言うとおりにするんだ。いいね」


プツッと電話は切れ、携帯の画面はやがて真っ暗になった。まるで、万里子の心の中のようだ。


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