愛を教えて
(これだけ? たったこれだけで、私たちは終わりなの?)


『では奥様、参りましょう。お荷物は手荷物だけで構いません。あとでお送りいたします』


ジェームズはニコリともせずに言った。


万里子は頭の中が痺れたようになり、まともに考えることができない。

だが確かに、卓巳はこのジェームズに従えと言った。それは、万里子を差し出すことでライカーと和解したのだろうか? 恒久的に? それともひと晩? 或いはライカーが飽きるまで。

混乱する万里子の心を打ちのめすように、ジェームズは言葉を重ねた。


『サーは女性には優しい方です。彼の愛人は皆、望むものを与えられて幸せに暮らしておられる。自由になる資産はこれまでより多くなられますよ。あなたは何も失わない。ただ、パートナーが替わるだけだ』


後半部分の言葉に蔑みが含まれていたことなど、万里子に気づく余裕はない。

考える時間も泣く時間も与えられず、万里子は急き立てられるように身支度を調える。

そのとき、万里子はひとつのことに思い当たり愕然とした。


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