愛を教えて
だが、その日本人の血が縁でフジワラに採用された。彼はそのことに触れられるのが嫌な様子だったという。

このフジワラ・ロンドン本社は先代社長が八十年代の好景気のころに設立した。卓巳が関わったのは、フォークナー社からの申し入れがあった一昨年からだ。

このときすでにジェームズはロンドン本社社長だった。虫の好く相手ではなかったが、仕事に影響がないなら、日本人に対する好悪の情などどうでもいいと思っていた。


卓巳はチケットを予約したエール・フランス航空と、パリのホテルに電話で確認を取る。

返事はどちらも『Non《ノン》』。マリコ・フジワラの搭乗記録はなく、当然チェックインもされてはいなかった。


卓巳は椅子を蹴るように立ち上がり、ポールハンガーから上着を取る。 


『ジェイク! サー・スティーブン・ライカーの居場所を見つけ出せ。大至急だ! ロンドン市内にいるはずだ。それと税関に連絡してサエキの出国を止めろ! 銀行にも手を回して口座も凍結だ。それと、サエキの自宅住所を携帯メールに送ってくれ』

『社長……あの、奥様は』

『ぼやぼやするなっ! さっさと動け!』


それだけ言うとジェイクより先に、卓巳は部屋を飛び出した。


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