愛を教えて
卓巳の思考が凍りついた。

ボスの顔色を伺いながら、ジェイクは続ける。


『五年前、彼は二十五年連れ添った妻を亡くしました。その一年後、二十代の女性と再婚しました。それが今の妻、ナタリーです。かなりお金のかかる女性らしく……』


ジェームズは若い妻を満足させるため、ハイリスクの投資ファンドや先物取引に手を出し始めた。見る間に借金は膨れ上がり、十万ポンド以上になる。

そうなると、ある程度の権限を持つ多くの人間が犯す、更なるリスクに彼は手を出す。ジェームズには収賄の疑惑だけでなく、横領の可能性もあるという。


『彼がライカー社の人間と私的に会っているのは確かなようで……社長?』


ジェイクの報告を最後まで聞かず、卓巳は手元にある受話器を取った。


――ジェームズ・サエキは、自分の中に流れる日本人の血を嫌っている。上流階級《アッパークラス》であった英国人の母は身分を捨て、日本語学校に勤める日本人教師と結婚した。そのため、彼の人生は労働者階級《ワーキングクラス》からのスタートを余儀なくされた――


それは卓巳が、ロンドン本社の古参の社員から聞いたジェームズの話だ。


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