愛を教えて
卓巳の言葉にジェームズの表情はパッと明るくなった。安堵の息を吐き、笑顔を見せながらアパートメントに戻ろうとする。


そのときだ。卓巳の後方、グローブエンド通りに三台の車が停まった。その最後尾の車、黒のローバーミニから降りて来たのはジェイクだ。


卓巳は足早にジェイクに近づく、途中黒いスーツの男たちとすれ違った。


男たちは小走りにジェームズの周囲を固める。


『ジェームズ・サエキだな。スコットランドヤードだ。君に逮捕状が出ている』

『これはどういう……騙したのかっ! 貴様よくも』

『君を救えるのが私だとは言っていない。弁護士にでも救ってもらえ。ああ、勤続三十年か……ご苦労だったな。敬意は伝えたぞ』


冷静な言葉とは裏腹に、卓巳の視線には殺意がこめられていた。

ジェームズは震え上がり、思わず警官の後ろに隠れる。


『社長! これを……先ほど、ライカー社の人間が会社に届けて来た、と』


ジェイクは一通の封筒を差し出した。


卓巳は受け取り、無造作に中身を取り出す。そこには、ライカー社の認可印が押された正式契約書が入っていた。そして、契約書に貼られたメモに書かれていたのは……“君の妻の代金だ”


『ジェイク、運転を頼む。メイフェアにやってくれ』


メモを握り潰した卓巳の指は、血の気が失せ、拳には血管が浮き出ていた。


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