愛を教えて
卓巳は血相を変えてドアを開け、隣の部屋に飛び込む。

中はカーテンが閉まったままで薄暗い。そこにはドクターとナース、付添い人がそれぞれひとりずつ、全員女性だった。


中央のベッドに万里子はいた。身体を丸めて、喉が裂けそうなほど悲鳴を上げている。

三人の中で唯一日本語の話せる付添い人のソフィが、万里子を落ちつかせようと必死に語りかけている。だが、まるで効果はなかった。


「万里子! 大丈夫だ。大丈夫……僕を見るんだ」


ベッドに覆い被さり、卓巳は万里子を力一杯抱き締める。


『鎮静剤を打ちましょう……注射を』

『待ってくれ。薬の多用はしたくない』

『この場合は仕方ありません。奥様は眠る必要があるんです。一日の限度量を超えることはありませんから』

『……わかった』


卓巳は腕の中で泣き叫ぶ万里子を、動かないように押さえ込む。催眠鎮静剤を投与されると、万里子は短い時間で落ちつきを取り戻す。即効性があるということは、その分副作用もあるということ。卓巳はそれが不安で仕方ない。

だが、このままにすると万里子はベッドから転げ落ちるように逃げ出し、バスルームに駆け込んでしまう。そして、一心不乱に身体を擦り始める。 


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