愛を教えて
レストランやショッピング専用の棟に、その料亭があった。

全個室の店で、本来なら前日までに予約しなければ入れない。一見の客であれば当然“お断り”だろう。だが、オーナーの要望とあれば、断る訳にはいかない。

店は空いている中で一番上等な部屋を用意した。

そこは六人くらいまで会食が可能な、ゆったりとした部屋だった。黒壇五尺の座卓が置かれ、床の間には大きめの花器に竜胆や孔雀草、色とりどりの小菊など、季節の花が活けてある。花は部屋全体に優しい空気を醸し出していた。


そんな中、座椅子の肘掛けにもたれかかり……なんと卓巳は大笑いしている。

万里子は呆れた顔をして、


「私は本気で心配したんですよ。イトコっておっしゃるし、藤原さんって言っても否定されないし。もし、藤原さんが本当にそんな方だったらって」

「ああ、悪い悪い。確かにイトコには違いない。まあ、奴ならあの契約書は、間違いなく有名無実と成り果てるだろうな」

「そんな……」

「幸運だったな。鉢合せしたのが静香のほうで。我がイトコ殿が来ていたら、今ごろ君は問答無用で押し倒されていただろう」


座卓の上には銚子が二本空になっていた。卓巳は二合弱でご機嫌だ。彼は酒に強いタイプではなかった。


「藤原さん。そういった冗談はやめてください! 酔ってらっしゃるんですか?」

「気取るなよ。その手のことは経験済みだろう? 君はレイプのような乱暴なセックスは好きか? だったら太一郎とはお似合いの」

「イヤッ! やめて……私、私は……嫌です。そんな方に近づきたくもありません!」


万里子は真っ青になりカタカタと震えだした。


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