愛を教えて

(9)都内の攻防

卓巳と万里子が結ばれた日、太一郎は“株式会社F総合企画”のプレートが下がった卓巳のオフィスを訪れていた。


そこは、藤原グループ本社ビルの最上階。東京タワーはもちろん、富士山まで望める高さにある。


本社ビルは地上五十四階、地下五階の高層ビルだ。先代社長が計画、しかし、彼の急死で頓挫しそうになったところを、卓巳が引き継ぎ、三年前に完成させた。



「すっげえぇーーー!」


卓巳のデスクの後ろに立ち、窓からの眺めに太一郎は絶叫している。


「すげぇな。あいつ毎日こんなトコで仕事してんだよな」


それは単純な賞賛だ。嫉妬など感じるはずもない。任されてすぐ、こんなものを建てる人間の神経など、太一郎には到底理解できない。もし太一郎であれば、何もできなくて周囲の思惑に従うだけだろう。


(百回死んでも、俺は卓巳にはなれねぇな)


太一郎は、そんなことを胸に思い浮かべる。


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