愛を教えて
卓巳がシャワーから出て、万里子にその話をすると、


「疲れているのは卓巳さんが……。全然、手加減してくださらないから」


万里子はうつむき、声のトーンまで下がって行く。

思わぬ藪蛇に慌てたのが卓巳だ。


「す、すまない。つい、浮かれて。今夜は決して無茶なことはしない。それと、可能な限り、滞在を延長しよう。ハネムーンのやり直しだ。ウェールズは無理でも、せめて、ロンドン市内や周辺の観光をしよう。まだ、二階建てバス《ダブルデッカー》にも乗ってないだろう?」


卓巳の言葉に万里子は嬉しそうに微笑み……。


「社長? 藤原社長ですね?」


初々しい万里子の仕草を思い出し、卓巳の頬が緩みかけたとき、受話器の向こうから声が聞こえた。

卓巳は一瞬で我に返る。


「ああ、そうだ。宗じゃないのか? まあいい、奴に伝えておいて欲しいんだが……」

「少々お待ちくださいっ!」


伝言を頼むつもりが、電話を取った秘書のひとりが、どうやら宗を呼びに行ったらしい。


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