愛を教えて
「面白くねぇ」


窓のほうを向き、ブスッとした声で太一郎は呟いた。 


太一郎が車を降りたあと、卓巳は車の窓を下げる。


「太一郎、あの家は無駄に広い。野垂れ死にしそうなときは、意地を張らずに戻って来い。お前の母親にも、そう伝えてやれ」

「随分、寛大だな」

「家族だからな。ああ、忘れていた。殴ってくれたことに感謝している」


そう言うと卓巳は窓から手を差し出した。

太一郎はその手を握り返しながら、


「殴って礼を言われるなら、いつだってぶん殴ってやるぜ」


少し横を向きつつ、照れ笑いを浮かべる。

初めて見た従弟の素顔に、胸が熱くなる卓巳だった。


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