愛を教えて
皐月が入院してから、三週間が過ぎた。

立春、暦の上では春の始まりだ。だが、実際にはまだまだコートの手放せない時期だった。


「お帰りなさいませ、奥様」


皐月の意識はまだ戻らない。万里子は毎日見舞いに訪れ、数時間を過ごして帰宅する日々だ。

病院はもちろん完全看護だが、千代子のたっての願いで、彼女は皐月に付き添っていた。


万里子はエントランスでコートを脱ぎながら雪音に渡す。


「大奥様はお変わりなく?」


雪音の寂しそうな問いかけに、他のメイドたちもしゅんとなる。


「そうね。でも、きっとまた元気になって戻って来られるわ」


沈んだ雰囲気を一掃するように、万里子はわざと明るい声で答えたのだった。


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