愛を教えて
卓巳は十年ぶりに、自らの男性自身に排泄行為以外の目的を持って触れた。


“愛”を見つけた気がして……。


万里子を抱きたい、妻にしたい、ただそれだけだった。


非常灯がともる薄暗い室内、大きな窓から月の光が射し込む中、卓巳はそれを繰り返す。


(もし、万里子に気づかれたら……たとえそうなっても、拒否されたら)


迷いと焦り、そして罪の意識が卓巳を苛んだ。

ただ、無作為に時間は過ぎる。

彼の身体は、まるで思いどおりにはならない。

卓巳の胸に絶望感が広がった。


やはり、自分の中に“愛”はない。万里子を欲する思いは“愛”ではないのだ、と。


その瞬間、煌々とした灯りが室内を満たした。


同時に、卓巳の心を闇に堕としたのだった。


< 89 / 927 >

この作品をシェア

pagetop