愛を教えて
観覧車が最上部に達したとき、卓巳は都心を一望していた。港区にある自社ビルもよく見える。

今、卓巳のいる位置より軽く倍は高いのだから当然かもしれない。

だが子供たちには、パパの会社より羽田空港を飛び立つ飛行機のほうが魅力的らしい。


「ほら、また飛んだ! どこまで行くのかなぁ」

「きっと、ロンドンのアビーのとこだよ、お兄ちゃん!」  

「違うよ。外国に行くのはもっと大きいヤツさ」


五歳の長男、結人《ゆうと》が、四歳の次男、大樹《ひろき》に胸を張って教える。


去年の夏に家族で行った英国旅行の印象が強いらしい。彼らにとって飛行機のほとんどがロンドン行きのようだ。

結人が生まれた二ヶ月後、ジェイクとソフィにも娘アビーが誕生した。約束どおり、卓巳は洗礼式にも立ち会い、名付け親になる。『アビゲイル』それは父の喜びという意味を持つ名前だった。

息子たちは一緒にウェールズを回ったアビーが大好きだ。そのアビーと直接話したくて、ふたりとも熱心に英会話を習い始めた。


「お父さん! 夏休みにまた行ける?」


大樹が瞳をキラキラさせ振り返った。


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