碧いボール

初めての怒り

そこは、想像していたよりもはるかに大きな会場。
あたしの住んでる地区の総合体育館は、ここに比べたら「あり」?ってくらいに大きかった。
県大会なんかではよく使うそうなんだけど、あたしたちみたいに弱いチームには見学の案内さえこないから無理もないか。
あたしは一人で納得して、その大きな玄関をくぐった。
中は、外見のまま!
見事なシャンデリアとか、ありえないくらい広い廊下とか、必要以上に綺麗な階段とか。
あたしは恐ろしくなって、杏について来てもらってトイレに駆け込んだ。
さっきまで薄れていたはずの緊張も、会場を目にしただけで逆戻り。
そして予想通り・・・トイレも信じられないくらいに素敵。
いや、これがトイレってありえないですって。そんな感じ。
ああ、もう、ほんとにどうしよう。
焦るあたしをよそに、杏はすごく楽しそうだ。
「杏?恐くないの?緊張しないの?」
「ん?緊張?しないよ。あんだけ練習したんだもん、きっと楽しくバスケできるって」
そうか・・・あたしたちは選抜に入ること目的で来てないんだっけ。
楽しんできて、盗んだ内容をチームのために駆使する。
それがほんとの目的。目標。
「それに」
杏が言いかけた。
「こんな素敵なとこに来れること、もう二度とないかもしれないでしょ?だから今のうちに堪能しとかないと!」
あたしは、改めて自分が弱いということを実感した。
ちょっと、悲しくなる。
大好きな杏に言われたからなおさらなんだけど。
数日前までの、「あたしだから大丈夫」という根拠のない自信・・・いや、妄想が、完全にどこかに飛んでいった気がした。
芦田は近くで気の毒そうに見てる。
芦田はわかってるんだ。
杏は全く気づいてないみたいだけど、あたしは確実に傷ついてる。本人が言ってる。
あたしは杏に、初めて怒りを覚えた。
でも、怒りといっても、相手が杏だから本格的にいらだったりしない。
ただ、なんか・・・ピリっときただけ。
あたしの中の小さな怒りは、出現することなく静かに消えてった。
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