碧いボール

それから、芦田に案内されて大きな大きな体育館に入る。
ここが会場。ここで選抜を選ぶんだ。
セレクションは今日だけじゃなくて、今日、選考委員会が選手の実力を見て、明日はこの中から選ばれた数人が残ることになる。
今日落とされるのは20人。残るのは30人。
その中からさらにメンバーを絞るわけ。
開始時間には、まだ1時間ある。
芦田が、早く着いていたほうが印象がいい、と言ってたから、早く来た。
だからそれまで・・・アップだ!
「杏、行こう!」
「うん」

あたしは大きく深呼吸をした。
楽しみな時間とか、恐怖の時間とかは早いもので・・・人より早くアップを始めて1時間は、嘘のように短かった。
あたしの場合は後者かな?杏は楽しみみたいだけど、あたしは恐くて仕方ない。
でも・・・ちょっとだけ、楽しみ。
チームのみんなの経験しない試合を、特別に経験できるんだから。
だから・・・頑張ろうね、杏!!

「ナイスショット!!」
あたしたちなんて、到底及ばなかった。
声の大きさも、足の速さも、もうほんとに何もかも。
未知の世界。
こんな声、あたし出せない!!
そう思って、あたふたしてると、隣からすごく大きな声が聞こえた。
「ナイス!!!」
え、誰?うらやましいほど大きな声・・・。
そして隣を見ると、声の主は杏だった。
杏ってこんな声出たんだ・・・。
いや、違う。他の人の声を聞いて、負けず嫌いの杏だから、こんな声が出たんだ。
今はシュート練習をしている。
その時、選抜の先生から「集合!」と声がかかった。
移動する速度はダッシュ。
普段の練習でやるダッシュメニューと同じ速さで移動する。
あたしたちなんて、歩いていくもんな・・・。
あたしは追いつけなかった。
他の人が早すぎて、早すぎて、あたしがいくら後からダッシュしても全く追いつかなかった。
杏は、最初は驚いたみたいだけど、最強の瞬発力で、即座にダッシュに切り替えた。
その速さはあたしがびっくりするくらいで、あたしがついた時には列の先頭にいた。
杏、今日冴えてるよ。冴えすぎだよ・・・。
正直、杏がうらやましかった。
才能も、センスも、全てがうらやましかった。
あたしは幼少期からバスケを続けてて、努力してキャプテンにもなれたけど、杏は中学校スタートで。それなのに今は副キャプテン。
ミニバスをやっていた人はいるけど、その人たちより確実にうまい。
はぁ・・・ほんとに、うらやましいな。
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