碧いボール
「どんな人って、すごくいい人だった。丁寧で、ほんと話し方って性格出るよな」
しばらくの間があった。
相川のすすり泣く声が聞こえる。
どうした?俺、なんかまずいこと言ったかな?
「そうなんだよ・・・すごく、すごくいい人なんだよ・・・。それなのに、それなのに、どうしてあたしはこんなになるまで放っておいたんだろ・・・。自分が信じられないよ」
「きっと、大丈夫だよ。俺は何も言えないけど、大丈夫だよ」
「なんでそう思うの?」
「なんとなくだよ」
相川がプッと吹き出した。
ほっ・・・。笑った。
「もういいのか?切るぞ」
「まって、先生、お父さんね、多分、もう長くないと思うんだよね」
は・・・?重度の糖尿病って、だからってそんなことあるのか?
俺はよく知らないけど、なんで相川はそんなこと言えるんだ?こんな俺に。
「お父さんが自分で言ってたの。お医者さんに余命宣告されたって」
「待てよ・・・。糖尿病で、そんなすぐ亡くなったりするのか?」
「なんかね、他の病気を引き起こしたらしいの。何だったかな・・・忘れたけど。でも、糖尿病もあるから、手術ができないらしいの」
「そんな・・・」
「とにかくね、生きてるうちは好きなことさせてあげたいの」
「待てよ、何だよ、何だよいきなり!」
「聞いて。それで、お父さんを、バスケ部のコーチにできないかな。OBみたいな感じでいいの!さらっと来て、教えるだけでいいの!お願い、先生」
「それはいいんだ。いくらでもお願いするよ。相川、親父さんはあと・・・何年なんだ?」
「それがね、教えてくれないの。だからいいの。でも、こういうことこそ話してほしかったな。せっかく仲直りできたのにね」
「・・・・・・」
「とにかく、すぐにでもお父さん派遣するから!先生、よろしくお願いします」
そう言って相川は、一方的に電話を切った。
多分今、泣いてるんだろうな・・・。
可哀想な相川。
お袋さんを亡くして、今度は親父さんまでも。どうするんだろうな、これから。
いや。考えたくない。俺は首を振った。
とりあえず、明日は親父さんが来る。
俺が知ってること、知られないようにしなきゃな。
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