碧いボール

「碧いボール」



  杏Side
自分でも、ありえないことを言ったのはわかってる。
あたしが今言った条件をクリアするには、二重に努力が必要なのだ。
でも、努力だけでは成功できない。
それもわかってる。
あたしたちみたいな弱いチームには、到底無理だって、わかってる。
それでもあたしは、この条件を選んだ。
「碧いボール」を見つけるには、「努力して手に入れた強さ」と・・・「運」が必要だって言われてる。
だから、今までに手に入れたチームは聞いたことが無い。
絶対無理だって思ってる。
あたし、最低だな・・・。
心の底では、「まだ続けてたい」って思ってるのに、素直になれない。
意地張ったって、しょうがないのに。
「やっぱり、やめないよ」
その一言に、有希はとても喜んでくれるはずなのに。
それは言えなくても、やっぱり「碧いボール」のことは、言い過ぎたかな、なんて思ってしまう。
でも、いまさら取り消せない。
やっぱりあたしは素直じゃない。

「碧いボール」。
あたしの住んでる地区に住むバスケ族なら、誰もが知ってる「伝説」。
つまりこれは伝説であって、実在するかすらわかってないんだ。
「碧いボール」の伝説、あたしが知ってるのだけ、全部話すね。

「碧いボール」は、この地区の中体連で、はじめて優勝したチームにまつわる伝説なんだ。
そのチームはそれまで、弱小チームと言われていて、一回戦敗退はもちろんのこと、ベスト8に入るチームには、0点で負けることもあったんだって。
悔しくて悔しくて、毎日頑張って、努力して、ついに中体連で優勝を果たしたんだって。
その後で、キャプテンが大会主催者に頼み込んで、決勝戦で使った試合球をもらった。
その日は晴天で、空には雲ひとつ無くて、その空がすごく綺麗で、自分たちを祝福してくれてるみたいだ・・・って思った。
そのチームの人たちは、その時に見た景色が忘れられなくて、その試合球を真っ青に染めたんだって。
それを、中体連の優勝チームしか入れない、複雑な造りの部屋のどこかに隠したんだって。
だから「碧いボール」。
昔、これは「青いボール」だったらしい。
今はなぜか改名して「碧」になったんだけど。
まあ、とりあえず優勝しないとだめだから、うちのチームには無理なんだけどね。
それを知ってて条件に選んだあたしはやっぱり最低だな。
でも、有希なら意地でも頑張ってくれるかも。
そんな有希が大好きなんだけど・・・ね。


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