ケイヤク結婚
「事故だったって話してたね」

「まあ、悲惨な事故でさ。ホント、最悪なんだけど」

「あ、言いたくないから無理に言う必要ないからね」

 私は、暗い表情になった理沙ちゃんの手を握った。

「あ。平気。それに、綾乃さんには知っててもらいたいんだ。お兄ちゃんの口からは絶対に言わないと思うし」

 飴玉の入っていた袋の口を絞ると、理沙ちゃんは鞄の中に放り込む。

「うちのお母さん、男つくって家を出て行ったの。んで、取り残された私たちは三人で質素に暮らしてたんだけど、ある日……男と一緒にいるお母さんをお父さんが見かけて、まあ……ガシャンって感じ。ただ追いかけて、話を聞きたかっただけなんだと思うけど。真相はわからず仕舞い。残された私たちは、二人で親戚をたらいまわし。お兄ちゃんが成人してからは、私とお兄ちゃんで二人暮らしをして。私が結婚したら、お兄ちゃんが一人で実家にいるの」

「そう……なんだ」

 かける言葉が見つからず、私は下を向いた。

 こんなとき、どう言えばいいのか、わからない。
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