ケイヤク結婚
 私は小走りで、理沙ちゃんを追いかけた。

 曲がり角で私はドンと理沙ちゃんにぶつかって、「ごめん」と声をあげた。

 あれ? 待っててくれたのかな?

 理沙ちゃんの前にいかにも高級そうなスーツに身を包んでいる男と、理沙ちゃんが対峙していた。

「……さいあく」と理沙ちゃんの不機嫌な声がする。

「理沙ちゃん、どうしたの?」

「なんでここにあんたがいんのよ」

 理沙ちゃんが、男に向かって怒鳴り声をあげた。

「おいおいおい、それはこっちの台詞だろ。社員でもないお譲ちゃんが、会社内をうろうろしてさ……って、綾乃?」

 名前を呼ばれて、私は初めて男の顔を確認した。

 見覚えのある顔だ。髪型や服装は変わってしまったけれど、声と顔は全く変わってない。

「侑?」

 私の言葉に、侑がにっこりと笑う。

 逆に理沙ちゃんが私の顔を見て、ぎょっとした表情になった。
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