ケイヤク結婚
 私は、「ふう」と小さく息を吐くと、首を横に振った。

「謙遜じゃない」

「…たく。強情なところも変わってない」

「ちょっと! その手は何」

 私の頭の上にある侑の手を、理沙ちゃんが睨みつけた。

「別に。友人だしな、俺たち」

「いこ、綾乃さん」

 理沙ちゃんが、私の腕を掴むとぐいっと引っ張った。

 私は理沙ちゃんの背中を追いかけながら、侑と別れた。

 会いたくなかった。こんなところで再会するなんて。

 確か、侑の名前は『新垣』だった。

 大輝さんは昨日、『新垣』という人間とライバル同士だと言っていた。

 じゃあ、大輝さんは侑と出世コースを争っているのだろうか。

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