ケイヤク結婚
 壁の冷たさが、背中から伝わってくる。

 再度、落ちてくるキスに、首を捻って避けた。

「やめて。私を彼女だと思ったことはないでしょ」

「思ってたさ」

「嘘つき。都合の良い女扱いしてただけじゃない」

 私がどんな思いで、侑と別れを決めたかなんて知らないくせに。

 まるで恋人に捨てられた男みたいな言い方しないで。

 私がどれだけ苦しい想いをして、侑と別れを選んだのか……。

 突然再会したから、今は過去の男としてそれらしく振る舞っているだけだわ。

「お願い離して」

「携帯も、住所も、全部変えて。俺が探してないと思ってたのか」

「ええ、思ってる。現に、そうだったでしょ。今だって、上司の娘さんとお見合いしたとか」

「姿を消して、もう何年過ぎてると思ってるんだ。いい加減、次の恋に目を向けてたっていいだろ」

「傷心した男のふりをするのはヤメテ。私はもう騙されない」

 私はふっと手首の力が抜ける隙をついて、侑から離れた。
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