ケイヤク結婚
 ぎゅっと抱きしめられた肉体からは、ほんのりと柑橘系の香水が鼻につく。

 相変わらず女性には困ってないみたい。

 ああ、上司の娘さんとお見合いしたって、大輝さんが言ってたよね。

 侑の舌が歯列をなぞっていく。懐かしいキスのやり方に、溺れる前に私は侑の胸を押した。

「やめてよ!」

「俺に会いに来たわけじゃなさそうだ」

「当たり前でしょ。離して」

 手首をしっかりと侑に掴まれている。逃げたいのに、逃げられない。

 力では、侑に勝てない。

「ある日突然、彼女と連絡が取れなくなった男の気持ち……わかる?」

 手首を掴まれたまま、私は侑に壁に押し当てられた。

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