君のための嘘

旅行

マンションのエレベーターに乗っても、先ほどの光景が脳裏に張り付き疑問が頭の中を渦巻いている。


運転手がドアを開けて頭を下げる。


仕えられるのが当然のことのように見えた……。


いったい……ラルフは何者?


私はいったい誰と結婚したの?


ラルフが遠く感じる。


夏帆は下唇をギュッと噛んでセキュリティボックスに指を置いた。


リビングに入るとラルフはスーツのままで振り向いた。


「夏帆ちゃん、お帰り。遅かったんだね?」


爽やかなラルフの微笑みに、夏帆の険しかった表情が少し和らぐ。


「う、うん。ちょっと買い物をしてきたの……」


先ほどの事を聞いてみようか……ううん、ラルフの知らない面を知ってしまいそうで怖い。


今はこの平凡な生活を楽しみたい。


戸惑う夏帆だった。


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