君のための嘘
「どうしたの?」


「あ、あの……私行きます」


「行く?」


ラルフが小首を傾げる。


「はい 本当にありがとうございました」


深く頭を下げてお辞儀をする夏帆の元へラルフは近づき、ため息を吐きながら首を横に振った。


「思い出させてしまったね 本当に結婚したくないのならここにいてもいいんだよ」


ラルフの長い指が、夏帆の頬に触れた。


涙を拭われて、泣いていたことに気づく夏帆。


「……でも」


「今日は疲れているんだ ゆっくり休むといい」


背後に回ると夏帆の両肩に手を置き、ラルフは彼女の寝室に連れていく。


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